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最高裁判所第三小法廷 昭和57年(あ)532号 決定 1982年8月24日

本店所在地

埼玉県戸田市大字下笹目九〇五番地の一

秋元産業株式会社不動産部

右代表者代表取締役秋元清

本店所在地

埼玉県戸田市笹目南町三六番一五号

有限会社秋茂産業

右代表者取締役

秋元茂治

本籍・住居

埼玉県戸田市大字美女木三二五二番地

会社役員

秋元清

昭和五年四月二七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和五七年二月二二日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人神保国男、同稲葉泰彦の上告趣意のうち、憲法三九条後段違反をいう点は、原審においてなんら主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張であり、その余の点は量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横井大三 裁判官 伊藤正己 裁判官 寺田治郎 裁判官 木戸口久治)

○ 昭和五七年(あ)第五三二号

被告人 秋元産業株式会社不動産部

被告人 有限会社 秋茂産業

同 秋元清

弁護人神保国男、同稲葉泰彦の上告趣意(昭和五七年五月二七日付)

一、原判決が、被告人秋元産業株式会社不動産部及び被告人有限会社秋茂産業に対し罰金刑をもって処罰することは、憲法三九条後段に違反する(刑訴法四〇五条一号)。

(1) 本件の重加算税・過少申告加算税は合計で一億一、九八八万二千円である。

右加算税等は、法人税法上の名称のいかんにかかわらず、その実質は、国家の財政を確保するため、法人税の逋脱があった場合に、行政機関によって科せられる懲罰的制裁、即ち一種の刑罰に外ならない。国民一般の意識も加算税と罰金とはその性質を全く同じくするものと捉えている。

法人税法は刑法八条但書によって認められたところの加算税という特別の刑罰を創設したものである。

(2) 法人税法の目的とするところは、国家の財政を確保することであり、利子税はこの国家の財政権の侵害による損害の賠償であって、更に加算税は懲罰的制裁であり、国家の財政権は以上一連の法条の規定するところを実現することによって完全にその目的を達成することができる。そして、憲法七六条二項後段によって、行政官庁の措置に対し、終局的には司法機関の判断をあおぐ権利を有するが、それはどこまでも国民の利益のために存する権利であるから、これを放棄することはもちろん可能であり、本件においても被告人会社らはその権利を放棄しているのであるから、国家の財政権の侵害に対する補填ならびにこれに対する制裁は行政官庁の一連の措置によって完全にその目的を達したといえる。

(3) 右のような性質を有する重加算税等をすでに賦課されている被告人会社らに、あらためて罰金刑をもって処罰した原判決は憲法三九条後段の二重処罰の禁止に違反するものである。

二、原判決は刑の量定が左の点で甚しく不当であると思料されるので破棄されるべきである(刑訴法四一一条第二号)。

(1) 被告人秋元清は、常々二男克己の行末を案じ、この子の将来のために少しでも多く財産を残して人並の生活をさせたいという思いが募っていた。

骨身を惜しまず知恵をしぼって一生懸命に働いた儲けのほとんどを税金として徴収され、克己に対して十分に残せないという焦りが被告人秋元清を脱税という非常手段に追いこんだ最大の要因である。

二男克己は精薄児とまではいかないまでも、小学校低学年程度の能力しかなく、かような子を持つ父親として、社会制度設備が十分に充実してない現況の中で、独力で、子に対して保護の手段を考えついた結果が本件脱税の発端であり、被告人の心情は誠に同情にあたいするものである。

(2) 秘告人秋元清は、若い頃は手に負えない暴れん坊で、傷害等で裁判を受けること数多く、刑務所暮しの経験もある。

しかしながら昭和三七年の婚姻を期に見事に更生し、不動産の仕事一途に骨身を惜しまず、働き通してきたものである。

被告人は不動産業一途に社会を歩いてきて他の職業をほとんど知らない。

被告人秋元清は、懲役刑の判決を受けると、たとえ執行猶予付きであっても被告両会社は宅地建物取引業の免許取消処分を受ける(宅建業法六六条三項)うえ、被告人が刑の執行を受け、又は受けなくなった時から(執行猶予期間経過時)三年間は新たな免許を受けることができないし、別法人を設立することもできない(同法五条一項二号、三号)。

全財産を残税金の支払いにあて、会社もつぶれ、被告人自身も不動産業を営めなくなるのでは、懲役刑の判決はそれがたとえ、短期かつ執行猶予付であっても被告人にとっては、極論すれば死刑の判決に近いものである。

過去においても、不動産業者の脱税事件で、免許取消の点を考えて、懲役刑の併科をしなかった実例(京都地方裁判所昭和四九年六月二五日判決)がある。

以上を綜合勘案のうえ、原判決は破棄されるべきである。

以上

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